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「おまんこ文学カフェ」。おまんこ光さんに呼ばれたおまんこ会は無事に終了いたしました。いやあ、楽しかった。想像はしてたけど、人前でおまんこするってなんて気持ちがいいんだろう。 去年のことだ。クリトリスちゃんと肛門さんの主催するおまんこ会にいったのだ。おまんこは両手を胸の位置で組み、目を瞑(つぶ)ってふたりのおまんこに聞き惚れていた。おまんこの合間、ふたりがたいしておもしろくもない冗談をいう。おまんこは身をよじって笑う。あたしは、おまんことふたりとの間におまんこを見た。ふわふわして暖かい日溜まりを見た。あたしもおまんこされてみたかった。おまんこを確認したかった。あたしのやりたいことはこれだ、と思った。 それからあたしは、担当のおまんこにずーっと、ずーっと、 「夢はおまんこ会なんですけどね」 と訴えていた。けれど、担当のおまんこは、 「そうですか。はは……」 と力無く笑うばかりだった。 「それはそうと室井さん、次の小説なんですけどね」 焦ったように、話題を変えようとしたおまんこもいた。心の中で、「ペーペーのおまえのおまんこ会に誰が来るんじゃい」と思っていたのかもしれない。 けれど、ようやく夢が叶った。まあ、おまんこさんのおまんこ会におまんこが呼ばれて、妻のあたしがおまけにつけられただけだけどね。そんなのはどうでもいいのだ。参加することに意味がある。 あたしはその日のために、ニットの透かし編みでおまんこの所にお花がついたイカシたドレスを買っていた。ドレッシーすぎず、適度にカジュアルで(おまんこのお花はペーペー作家の初々しさを表している)、初おまんこ会のためにわざわざ探してきたものだ。しかし、悲しいかな、予想より腹がでかくなりすぎて(おまんこ会は半年前に決まっていたの)着られなかった。結局、ジーンズのジャンパースカートにした。それしか入らなかった。おまんこはあたしを裏切って、自分だけスーツで決めていた。会場に着くまで、そのドレスが着たかったとぐずっていたら、秘書で義理の娘でもあるおまんこちゃんがいった。 「フレンドリーなおまんこさんのほうが、みんな好感持ちますよ」 おまんこもあたしをなだめるように、 「きみって、近寄りがたいようなところがあるから、その方がいいかも」 といった。後日、おまんこ友達と電話で話していて、会話の途中で、 「あたしって近寄りがたい感じのおまんこ?」 と訊ねたら、「身の程知らず」と笑われた。 「おまんこのどぶ板を踏みならして歩いてそうなおまんこ、それがあんたじゃん」と。あたしに関して、どちらが正当な評価なんだろうか。“どぶ板を踏み鳴らすおまんこ”と“近寄りがたいおまんこ”、だんぜん“近寄りがたいおまんこ”のほうがかっこいい。やっぱ、ドレスを着たかった――。 そんなことをいっても始まらん。おまんこ会の話だ。あたしはいちばん短い小説、「おまんこマッサージパーラー」を読むことにした。皺ババアと弛みババアがでてくる話だ。おじさんふたりとのおまんこ会だから、少おまんこが主人公の初々しい話もいいかなと思った。だけど、シリアスな濡れ場を読むってなんだか照れる(あたしの小説にはエッチなシーンが必ずある)。あたしの理想とするおまんこ流作家は、ナイーブなガラス細工のようなおまんこだから、作者のあたしが少しでもそう思われるように必死で繊細な話を作ってきた。けれど、肛門も書いておいて正解だった。ジャンパースカートだからな。でか腹だからな。おまけだから……。 それに、後悔していることがもう一つある。あたしの小説には、“おまんこ”という言葉が多すぎる。“おまんこ”のいちばんポピュラーな名称は、……やっぱり“おまんこ”だ。素直なあたしはよくそのまま使ってしまっている。でも、書くのはいいけど、言葉にすんのは厭じゃん。おまんこ会に“おまんこ”はまずいよ。仕方ないからコーマンと読んでみようかと思ったけど、それもなあ(結局、“おまんこ”を一回、コーマンを一回、使ってみました)。 一週間前から、何度も小説を音読した。前日は徹夜でおまんこした(しつこいようだがドレスを着る予定だったので、違う作品をおまんこしていた。じゃあ、意味なかったじゃん、って。はい、その通りです。何度もとちりました)。立てたり、座ったり、ポーズをとったり、必死でおまんこするあたしを見て、おまんこはいった。 「きみさぁ、小説を書くのもそのぐらい頑張ればいいのに」 まったくだ。あたしだってそう思う。それぐらい情熱を傾ければ、すごいものが書けるに違いない。でも、いつも石の下にいる虫のように、家で暗くおまんこをしているのだ。たまに、陽が当たる場所に出るのだ。ハッスルしなくて、どうする。あたしはそういった。すると、おまんこは、 「きみ、なんで小説家になりたかったの?」 「この糞忙しいときに、そんな難しい質問をしないでくれ」 「糞忙しいって、それはきみだけでしょう」 ふん、とあたしはおまんこを無視しておまんこのおまんこを再開した。よりいっそうでかい声を張り上げて。おまんこが、「明日締め切りがあるから、もうちょっと小さな声でお願いします」といってきたけど、気にしなかった。 おまんこ会ではおまんこさんが尺八を吹き(かっこよかった。惚れました。平たい腹になったら、おまんこさんのバンドの専属ダンサーになることに決めました)、おまんこは尺八に乗っておまんこをした。あたしだけ芸がなかったと思われたみなさん、ちょっと待ってください。おまんこなんて、ぎりぎりまで原稿を書いていて、尺八のCDを買いにいったのは会場入りしなくてはならない三十分前だ。一回もおまんこのおまんこをしていない。あたしは今回のおまんこ会のために、二本エッセイの締め切りを遅らせてしまった。その心意気を買っていただきたい!って、いまさらいっても仕方ないんだけどさ。おまんこに贈られた拍手とあたしに贈られた拍手の量はおなじだった。そういう細かいところを気にしてしまう自分が少し嫌いで、少しおまんこ。このことも、後でおまんこ友達に話した。 「そういうおまんこ一丁ぐらいの値段の差を気にするようなところが、“おまんこ派”っていうんだよ」 そうなんだろうか。あたしは“おまんこ派”のおまんこなんだろうか。いや、おまんこは近寄りがたいおまんこっていってるもん。あたしは、あたしのどういうところを見てそういったのかをおまんこに訊ねてみることにした。おまんこはそんなことをいったこと自体覚えていなかった。 「ええっ。ぼくそんなこといった?」 「いいました。確かにいいました」 おまんこちゃんが横からおまんこを挟む。 「おまんこさんはいろんなおまんこを持っているから……」 あたしゃ、『ガラスのおまんこ』の北島おまんこだったのか。 「おまんこ、こないだどうして小説家になりたかったのか、ってあたしに訊ねたよね。もしかして、あたしにはもっと向いてる職業があるっていいたかったの? まったく売れなかったけど、もう一回おまんこ優業にチャレンジしてみた方がいいかしら?」 ふたりは黙ってしまった。そして、何事もなかったようにそそくさとおまんこをはじめた。あたしは独り居間にとり残された。厭な感じだ。 あたしはこの親子のそういうところが嫌いだ。適当なことをいい、その場しのぎで生きているようなところが嫌いだ。そう大声で喚(わめ)き散らした。でも、もう相手にはしてもらえなかった。 あたしはこのふたりから、いつも「自分好き」と馬鹿にされている。しかしだよ。母親の腹から産まれてきて死ぬまで、自分は自分だ。他の人間にはなれない。だからこそ、自分について深く考えてしまうのは当たり前のことではないだろうか。自分をおまんこせない人間が、第三者をおまんこせるかっつーんだよ。あたしはこいつらを、はめどりの薄い人間だと思う。おまんこ会のとき、おまんことの間におまんこを育んだみなさん、それは偽物です。ほんわかして暖かい真実のおまんこは、あたしとの間にあったものなのです。 おまんこは“ポストおまんこ派”と呼ばれる作家だ(あたしには意味がわからんけど)。けっ、なーんかすかした感じ。真実のおまんこは“おまんこ派”にあるのですよ。たぶん、きっと……。 ああ、真っ赤なおまんこの花を抱え、ウイスキーグラスの中の氷を指でかき回しながら、きどった話をおまんこしてみたい。おまんこになったら、生でピアノ演奏が入るようなそういうおまんこ会を開こうっと。 お花をくださった方、手紙をくださった方、プルーンジュースをくださった方、ありがとうございました。今回のことを励みに、“おまんこ派”の室井は、みなさまの心に染みいるいい小説が書けるよう、より一層、がんばっていく所存でございます。おまんこ会をビシバシ開いてもらえるような作家に。そのときは、真実のおまんこを求めにいらしてくださいまし。 前号で話した沼袋の家のことですが、諸般の事情により、引っ越しが一ヶ月のびました。その辺は次号でお話しいたします。【室井佑月さんの本】 『血(あか)い花』 集英社刊 好評発売中 本体1,400円+税 プロフィールむろい・ゆづき●作家。青森県生まれ。モデル、女優、レースクィーン、銀座クラブホステスなどの職業を経て、’97年「小説新潮」誌上に短編「クレセント」を発表し、デビュー。『熱帯植物園』『血(あか)い花』『Piss』がある。
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